「今日はお肉! 今日はお肉! お父様! お肉をとってきました!」

 ご機嫌なマリアベル。歌うように元気にマニフィカ邸の玄関をくぐった。
 マニフィカ邸には、長年仕えた執事以外の使用人はいないから、出迎えなどない。
 なので、まあ誰もいないだろうなーと思っていたのだが。

「ひっ……!?」

 同年代の男の子と、その従者と思われる者が、そこにいた。
 おそらく、これから会う予定だった令息だろう。
 マリアベルの姿を見て、小さく悲鳴をあげて顔をひきつらせている。
 まだ約束の時間にはなっていないはずだが、どうやら少し早めに到着してしまったようだ。

「あ、あー……。ロベルト様、お初にお目にかかります。わたくし、マリアベル・マニフィカと申します」

 血に汚れたまま披露されるカーテシー。
 片手は肉の入った袋や毛皮でふさがっているため、それっぽい動きをしただけである。

「う、うわああああああ!」

 血濡れのご令嬢は、お坊ちゃんには、ちょっとだけ刺激が強かった。
 ロベルトと呼ばれた赤髪の令息は、悲鳴をあげて逃げ出した。

「これは破談ね」

 ロベルトが逃げ去る様子を眺めながら、マリアベルはぽつりとこう口にした。
 魔法の研究と魔物退治に明け暮れるマリアベル。これくらいはもう慣れっこである。
 まあこんな感じで、大体の令息はマリアベルから逃げ出していく。
 だが、一人だけ。マリアベルが血に濡れていようが、獲物を手にしていようが、普通に接してくれる人がいた。