アーロンは、まだ5歳ほどだったマリアベルのことも、鮮血のマリアベルと呼ばれて令息たちに逃げられていた彼女のことも、妖精姫が再来した今のことも、よく知っている。
 出会ったころからここまで、ずっと彼女のことが好きだった。
 アーロンからすれば、マリアベルの見た目につられて、突然態度を変えた男たちは、それなりに腹立たしい存在であった。
 彼女の本当のよさを――自分のことは二の次で、領地や領民のために頑張る姿を、認めてこなかった者たちなのだから。
 そのくせ今更近づいてきて、ちやほやして。マリアベルを評価するなら、もっと早くにしろというものだ。
 
 アーロンは、マリアベル、コレットとともに昼食をとり、昼休みが終わるころにはマリアベルを教室に送り届ける。
 驚異的な早歩きで2年生の教室に戻りながらも、昼休みの始めに見た光景のことを思い出していた。
 

 登校初日に感じた通り、マリアベルはやはり男子生徒に人気がある。
 今はよくても、時間が経てば、親しい男子も出てくるかもしれない。
 ただ仲がいいだけならまだいいが、「交際を始めました」「婚約しました」なんて彼女の口から聞かされた日には、失神する自信があった。

――正式に婚約の話をするまでなんて、待っていられるか……!

 長年思い続けた人が、つい最近現れた男に持っていかれる場面を想像し、アーロンはさらなるアプローチをかけていくことを決めた。