公爵家に生まれたアーロンは、その生まれゆえに、余裕ある態度を崩さない。
 穏やかに微笑んでいることが多く、女生徒には「微笑みの貴公子」なんて呼ばれているほどだ。
 マリアベルの前でも同様で、彼はいつもにこやかだ。
 ……まあ、マリアベルの前での笑顔は、作りものではなくて、彼の素だが。
 好きな子の前だから、自然と表情が柔らかくなるのである。
 
――ミエト、ってどこかで聞いたことがあるような。

 男二人がやり合う様子を見上げながらも、マリアベルはうーんと記憶を掘り起こす。
 訳あって、領地に引きこもっていたマリアベル。その彼女でも、「ミエト」という家名には聞き覚えがあった。

「……魔法のミエト家!」
「おっ! せいか~い!」

 嬉しそうにけらけらと笑うミゲルの隣で、アーロンは彼を睨み続けていた。

 アーロンの生まれたアークライト家が武の家なら、ミエト家は魔法の名家。
 剣のアークライト家と、魔法のミエト家。そんなふうに呼ぶものもいる。
 
「きみの言う通り、僕は魔法の名門、ミエト家の人間だよ。ミゲル・ミエト。よろしくね。ちなみに、アーロンと同じ二年生」
「は、はいっ! マリアベル、マニフィカです」

 ミエト家といえば、アークライト家に並ぶ名門公爵家だ。
 食事の途中だったマリアベルも流石にハッとして立ち上がり、つたないカーテシーを披露した。
 アーロンとミゲルは、ともに長身で、身長はさほど変わらない。
 だが、体形にははっきりと違いがあった。
 同年代の男性といえばアーロンぐらいしか知らなかったマリアベルは、ここでようやく、彼の体つきが意外としっかりしていることを理解した。
 ミゲルもひょろひょろというわけではないが、明らかにアーロンのほうが胸板も厚い。