マリアベルに絡んできたのは、伯爵家のご令嬢、クラリス・グラセス。
 爵位は同じで、どちらも由緒正しき家系だが、グラセス家は貧乏貴族ではない。
 一応、同格の家柄ではあるのだが……クラリスからすれば、貧乏娘と一緒にするな! といったところなのだろう。

 先日の魔法の実技授業では、クラリスに炎の攻撃魔法を向けられている。
 マリアベルからすれば弱弱しいものだったため、詠唱や魔法陣すらいらない水魔法で、ひょいと相殺して終わったが。
 その後のクラリスは、クラスメイトに向けて魔法を誤射したとして、教師にこっぴどく叱られていた。
 事実、相手がマリアベルでなかったら大事になっていたので、しっかり叱られ、反省すべきことである。
 以降、彼女が魔法を使ってマリアベルを狙うことはなくなったが、代わりにこうして絡んでくる。


 学園生活も2週目に入った。
 マリアベルには、まだ友達と呼べる人はいない。
 話しかけてくる男子の数はそれなりだが、女子には嫌われ気味。
 クラリスのように、アーロンにお世話をされていることや、貧乏貴族であることを指摘し、嘲笑う者も少なくはない。

「まあ、こうなるわよね……!」

 正直なところ、これくらいは想定の範囲内だったので、マリアベルはこの状況を「あはは」と笑って流した。
 それに、クラリスたちの言うことにも一理ある。
 婚約者でもない男性に、毎日毎日、送迎させているのだ。
 しかも、馬車の中では二人きり。
 貴族の娘としてどうなの? と思われることそのものは、いたしかたないだろう。
 しかし、友達が欲しいという思いは、まだ消えていない。
 始業前の教室で、ぽつんと一人孤立しながら、「お友達ができるよう、頑張ろう」と意気込んだ。