アーロンは、登校初日からここまで、毎日マリアベルと共に登下校している。
 馬車の中でも、学院内で会ったときも彼女はいつもご機嫌で。
 だから、貴族なのに学費免除の特待、ご令嬢としての教育もあまり受けていない、というやや特殊な子でも、いじめられたりはしていないのだろうと判断していた。
 しかし――!

「あら、マリアベルさん。ごきげんよう。今日もアーロン様に送っていただいたんですって? 婚約者ですらない殿方にそんなことをさせて、貴族の娘として恥ずかしくないのかしら?」

 席につき、ホームルームまで教科書を読んで過ごそうとしていたマリアベルに、こんな言葉が降りかかる。
 マリアベルの傍らに仁王立ちする彼女は、腰まで届く栗色の髪をふわりとなびかせて、ふふんとマリアベルを見下ろした。
 その緑の瞳は、明らかにマリアベルを蔑んでいる。
 その後ろでは、

「馬車もないそうですから、仕方ありませんよ」
「アーロン様も、こんな子が幼馴染だなんて大変よねえ」
「いつまであの方の優しさに甘え続ける気なのかしら」
「私だったら、恥ずかしくて王立学院になんて通えませんわ」

 と、取り巻きの女子たちがくすくす笑っている。

「クラリスさんに、お友達の皆様。ごきげんよう」

 マリアベルからも挨拶を返す。
 男に甘える貧乏娘を攻撃したつもりだったのに、マリアベルがにこっと笑うものだから、クラリスと呼ばれた女子は面白くなさそうに顔を歪める。

「クラリス『さん』ねえ……。同格の家柄のおつもりなのかしら?」
「伯爵家同士ですから」

 あっけらかんとそう返せば、クラリスはマリアベルをきっと睨みつけてから、「いくわよ」と取り巻きに声をかけ、その場を立ち去った。
 といっても、同じクラスのため、離れた席に移動しただけなのだが。

 そう、特待貴族マリアベル。ばっちりいじめられていた――!