「おはようございます、アーロン様」
「おはよう、ベル」

 ソルシエ王立学院への入学を果たしたマリアベルの一日は、迎えにやってきたアーロンと言葉を交わすところから始まる。
 厳密に言えば、起床して、朝食をとり、お弁当を作り、身だしなみを整え……と、朝の支度もしているのだが。
 マリアベルの中では、アーロンと顔を合わせるタイミングが、その日の始まりのような感覚になりつつあった。

 馬車に乗り込み、アーロンの隣に座ったマリアベルは、「今日はどんな授業が受けられるのかな」とるんるんだ。
 一方アーロンは、「あれ? いつもと変わらなくない?」とぽかんとしていた。

「あ、あー……ベル。今日も元気だね」
「そうですか? ……そう見えるようでしたら、やっぱり、学校に通えるのが嬉しいのかもしれません」

 言葉の通りなのだろう。
 マリアベルは、嬉しそうに頬を赤らめながら、ふわっと笑った。

 ああ、可愛い。

 ずっと大好きだった子の笑顔を間近で浴びて、アーロンはきゅんとする。
 馬を操る者はもちろんいるし、念のため護衛も同行しているが、馬車の中では二人きり。
 アーロンはこの時間を毎日楽しみにしているが、今日は、ちょっと緊張していた。

「特待制度さまさまです! うちが普通に学費を払うのは無理ですからねえ。私にお金を出す余裕があるなら、弟たちに回してほしいですし」

 私はラッキーです、特待万歳です、とマリアベルは腕組みしながらうんうんと頷いた。

 本日は、パーティー後、初めての登校日。
 まだそういった場に不慣れな学生たちに配慮し、パーティーは初週最後の登校日に行われていた。
 あの突然のプロポーズ後、アーロンが彼女に会うのは今日が初めてだった。

 あんなことをした後だ。
 アーロンは、マリアベルに避けられてしまうんじゃないかとか、他人行儀になるんじゃないかとか、自分を異性として意識してくれるかもしれないとか、色々な状況を想定していた。
 しかし、マリアベルに変わったところはない。
 安心したような、拍子抜けしたような……。
 あまりにもいつも通りすぎて、本当はプロポーズなんてしてなかったんじゃないか、とすら思えてくる。

 想い人と一緒の学園生活2週目。
 アーロンは「あれえ?」と思いながらも、マリアベルの話をにこやかに聞いていた。

 可愛いから、まあいいか! 避けられるよりはマシ!

 アーロンは、その境地に至った。