何度言われても理解できないマリアベルと、半ばヤケになっているアーロン。
 こんな応酬を繰り返すうちに、マリアベルは気が付く。
 もしかして、アーロンは――!

「アーロン様。それは、私と結婚したいという意味ですか?」
「そうだよ!」
「……!」

 マリアベル、ようやくちょっと静かになった。
 結婚。その言葉を噛みしめているようにも見えて、アーロンはちょっと安心する。
 わかってくれた! 届いた! オーケーしてもらえるかもしれない! と。
 
「……ベル。驚かせてしまって、ごめん。これから、マニフィカ家に正式に婚約を申し込む。だから……」

 婚約を、受けてくれませんか。
 そう続けようとしたアーロンを、マリアベルがさえぎった。

「お待ちください、アーロン様。……私では、あなたのご期待に応えられないかもしれません」
「そんなこと……!」

 貧乏なことや、育ちゆえに教育が不足していることでも気にしているのだろうか。
 貧乏なのはよく知っているし、教育ならこれから王立学院で受けることができる。
 魔法の才に秀でた彼女なら、強さを重んじるアークライト家だって大歓迎だ。
 だから、期待に応えられないなんてことはない。
 不足しているものなど、ないのだ。
 そう、思ったのだが。マリアベルは、アーロンの想像の斜め上をいく。

「マニフィカ家は、魔力の強い家系ではないのです」
「え?」
「私は、突然変異のようなもので……。私と結婚して子供を持っても、魔法適正の高い子が産まれるとは限りません」
「……なんの話?」
「武のアークライト家に、魔法の力を取り入れたいのですよね? 魔力の強い女を妻に迎えれば、剣と魔法、どちらにも秀でた子が誕生するかもしれないから」
「え、いや、チガウ……」

 彼らの関係を知っている者からすれば、マリアベルが突拍子もないことを言っているようにも思える。
 しかし、意外と彼女の見方も間違ってはいない。
 二人は、貴族なのだから。
 自分の親にすら話を通さず、恋愛感情一本で、突然のプロポーズをかましたアーロンのほうが、貴族らしくない行動をとったともいえる。

 アークライト公爵家は、武の名家。
 武器の扱いに長けた家に、魔力の強い女性を妻として迎え入れ、魔法方面も強化したい。
 そのために、魔法使いとして優秀なマリアベルが嫁候補に選ばれた。
 アーロンがマリアベルに向ける気持ちを知らなければ、そんな取り方をされたって、なんらおかしくはないのだ。
 
「チガウ……チガウ……ううっ……」

 きれいな顔をしょぼしょぼとさせて、ぷるぷると震えながら涙目になるアーロン。

 違うんだ。僕はきみのことが好きなんだ。魔力目当てなんかじゃない。きみのことが、好きなんだよー!
 
 心の中で必死にそう叫ぶが、公爵家嫡男としてはかなりやらかしたことやら、マリアベルに自分の好意がまったく伝わっていなかったことやらで、もういっぱいいっぱいで。
 その日、マリアベルに好きだと伝えることはできなかった。