彼女が制服を着ているときは、まだよかった。
 問題は、入学直後のパーティーである。
 彼女のエスコートを務めるアーロン。
 張りきって、彼女がより美しく見えるドレスを用意してしまった。
 準備しているときは、そりゃあもう楽しくて仕方がなかった。
 彼女がドレスを着る姿を見たときも、最高の気分だった。
 好きな子が、自分が用意したドレスを着ているのだ。
 気分の上がらない男など、存在するだろうか。

 正装に身を包んだアーロンは、マリアベルとともに会場の前に立つ。
 
「いこうか、ベル」
「はい、アーロン様」

 二人が並んで会場に入ると、みなが彼らに注目した。
 
 今日のマリアベルが身に纏うのは、シンプルな作りのうえに、さらに生地を重ねた白いドレス。
 スカート部分は、大まかに分けると三層構造になっており、最も外側の生地はふわりと後ろに広がっている。
 前面は二層で、長さも控えめなため、こういった格好に不慣れなマリアベルでも、なんとか歩けるだろう。
 彼女の髪と瞳の色をイメージした青と銀の宝石も、見事な刺繍とともに散りばめられている。
 アップにした髪には金の髪飾りが使われているが、これはアーロンの指示ではない。
 気を利かせた使用人が、アーロンの色を使ったようだ。


 ただでさえ美しいマリアベルが、美しいドレスに身を包み、髪をセットし、化粧をして現れた。
 会場にいた者たちは、みな彼女の美しさに心を奪われ、熱い視線をそそいだ。
 
「あれって……『鮮血のマリアベル』だよな?」
「妖精姫って、本当だったのか……」

 そんな声がそこかしこから聞こえる。
 マリアベル本人はあまり気にしていないようだったが、アーロンは恋敵……になるかもしれない男たちの言葉を、しっかり聞いていた。

 暴力女って聞いてたけど、ただの噂だったのか?
 あんな美人がよく血濡れになってるって本当なのかな。なんか、それはそれでいい気がしてきた……。
 妖精姫に魔法でぶっ飛ばされたい。
 
 パーティー会場で、そんな風に話す男たちもいた。
 ばっちり聞こえているアーロンは、「新しい扉を開くな!」と内心毒づいていた。