領地の復興は進んだものの、マニフィカ伯爵家は今も貧乏だ。
 龍脈の影響で今も魔物が多く、警備や討伐にも通常以上の費用がかかっている。
 領主の娘であるマリアベルが相当数の魔物を倒しているおかげで、金銭面ではだいぶ楽になっているはずなのだが……。
 それでも、劇的な改善にまでは至らない。
 王立学院の高額な学費を出す余裕など、マニフィカ家にはなかった。

「ま、まあ、入学できなかったらできなかったで、私も領地を守り続けることができますし。あと……ほら、学校に通うようになると、なにかあったときすぐに駆け付けることができなくなるし、自由な時間も減ってしまうでしょう? それだと、みんなが心配ですから」

 だから、これでいいんです。
 マリアベルは、そう付け加えて明るく笑ってみせた。
 全然気にしてない、これで構わない。そう強調するかのように。

「ベル……」

 本当は悲しいはずなのに無理に笑ってみせる彼女に、アーロンは胸を痛めた。

 この国には、貴族や富豪の子が多く通う王立学院がある。
 元々は貴族のために作られた学校で、教育水準は国一番。
 座学、魔法、マナー、剣技、ダンスなど……あらゆる教育を、一流の指導者から受けることができる。
 10代の者ならみなが憧れるような、麗しの学院であった。
 もちろん、学費は高額だ。一般家庭の者では、支払うことはできないだろう。
 しかし、それではせっかくの才能を逃す可能性がある。
 平民の中からも優秀な人材を発掘できるよう、学費が免除される特待制度も設けられていた。

 マリアベルも、家柄的には王立学院に通うべき人間だ。
 だが、学費が用意できない。
 学費が出せないなら、由緒正しい伯爵家の者であっても、入学はできない。
 ……特待生に値する能力でも、ない限りは。