しかし、そんな生活も、長くは続かなかった。
 マリアベルのことは、あくまで一時的に保護しているだけ。
 マニフィカ領の戦闘準備が整い、屋敷は安全であると判断されれば、彼女は領地に戻ってしまう。
 すぐに終わりが来るとわかっているからこそ、アーロンは彼女との時間を大切にした。
 自分のことを覚えていてもらえるよう、色々な話をした。
 別れのときには、お互いに泣いて、抱きしめ合った。
 また会おう、会いに行く。そう言い合い……アーロンは、まだ幼い彼女の額に、そっと唇を落とした。

 このときからずっと、アーロンは彼女に恋をしている。
 儚く可憐な妖精さんは、いつの間にか血に染まっていたけれど、そんなことは気にならない。
 だってあの血は、彼女が大切な人たちを守るために浴びたものなのだから。
 加えて、武の家に生まれたアーロンは、強い者に敬意をはらうところがある。
 ゆえに、マリアベルの魔法使いとしての強さも大好きである。

 血に染まった頑張り屋さん。美しく優しくたくましい人。
 好きな子に危ない目に遭って欲しいとは思わないが、アーロンは今の彼女のことも大好きだ。
 魔物討伐に明け暮れる彼女に引くどころか、どんどん好みになっているふしすらある。

 まあなんというか、アーロンはもう手遅れレベルにマリアベルのことが好きで。
 好きで好きでたまらなくて。
 マリアベルから逃げ出す令息たちのことなんて、心の底から理解できなかった。
 あんなに可愛い頑張り屋さんから逃げる? 暴力女だのと悪口を言う? 意味がわからない。
 しかし、心のどこかで安心もしていた。
 マリアベルのよさを理解している男は、自分だけだと。
 彼女が、他の男にとられることはないと。
 アーロンは、慢心してしまっていた。
 後に、マリアベルは破談続きだからとのんびり構えていたことを、彼は後悔することとなる。