これまでのことを思い出したのか、アーロンは、はあ……と深いため息をついている。
 そんな婚約者の姿を見て、マリアベルは。

「……友人。ミゲル様の、婚約者。苦労を共有する仲間……」

 とアーロンが口にした言葉を繰り返す。
 アーロンからは哀愁とも呼べるなにかがにじみ出ており、とても嘘を言っているようには思えない。
 合同授業の際、親し気に話していた女性はあくまで友人で、同じ苦労を抱えているから親しくなった、という話は本当なのだろう。

「そっ、か……。そう、だったんですね。私は、つい……」
「つい?」

 アーロンの言葉に、マリアベルが顔を上げる。
 視線の絡んだ彼は、ふふ、と愛し気にはちみつ色の瞳を細めていた。

「っ……! な、なんでもありません!」

 あなたの特別が、他の女性なのかと思って、もやもやした。
 それを素直に言うのは、なんだか恥ずかしい気がして。
 マリアベルは、怒ったふりをしながらそっぽを向いた。
 なんだか、今日はアーロンから顔を背けてばかりだ。
 これまではマリアベルのそんな態度にショックを受けた様子のアーロンだったが、今は違う。
 マリアベルが照れているだけだと理解しているようで、彼は面白そうに笑っていた。

「不安にさせてしまったのは、申し訳なかったけど……。まさか、きみが嫉妬してくれる日がくるなんてね」
「しっと……?」
「あれ、違った?」
「嫉妬……。嫉妬……?」

 彼の言葉に、マリアベルはうーんと首を傾げた。
 自分が抱いた感情は、嫉妬だったのだろうか。