しかしここで引き下がり、自分自身も黙ってしまわないのが、アーロンという男だ。
 恋心に全く気が付いてもらえない、長年の片思い。
 そこからの婚約。
 これくらいで打ちのめされていたら、そもそもマリアベルとの婚約までこぎつけていない。
 それに、なんだかんだで、彼には自信があったのだ。
 恋心ではないかもしれないが、自分はマリアベルに嫌われていない、むしろ好かれている、という自信が。

「……ベル。僕は、きみを怒らせてしまったのかな。……自分で気が付けない男でごめん。もし僕がなにかしてしまったのなら、教えて欲しい」
「……」

 マリアベルからの返事はない。
 彼女は俯いているから、表情は伺いにくいが、よく見れば、なんだか悲しそうにしているように見えた。
 ふむ、とアーロンは考える。
 彼女の様子がおかしくなったのは、今日のお昼休みからだ。
 その前……合同授業の始まりの際にマリアベルを見たときは、変わったところはないようだった。

――なら、合同授業の最中か?

 彼女の中で、アーロンに対してなにかしらの変化が起きたタイミングがあるとすれば、そのぐらいしか思いつかなかった。

「……今日、なにかあった? 例えば、合同授業のときとか」

 マリアベルがぴくっと肩を揺らす。
 合同授業、という言葉に、わかりやすく反応した。
 図星だったようで、少しの間をおくと、彼女は重い口を開く。

「……同じ班だった女性とは、仲がいいのですか?」
「え? 同じ班だった、女性……?」
「その……アーロン様の婚約者候補だった、という方と……」
「同じ班……婚約者候補……。ああ、リリーナのことかな? 付き合いは長いし、仲はいいほうかもしれないけど……」
「そうですか……」

 それきり、マリアベルはまた静かになってしまう。
 最初は彼女の質問の意図がわからなかったアーロンだが、しゅんと肩を落とすマリアベルを見て、ある可能性に辿り着く。

――もしかして、リリーナとの仲を疑われてる……? そのうえ、嫉妬、されている……?
 
 と。