「待って凌士さん、シャワーを……っ」
「いい」
「わたしがよくないんですが!」

 仕事帰りに急いで凌士を迎えにいったのだ。初冬とはいえ、汗だってかいていると思う。このままではいろいろと気になるではないか。

 ところが凌士は取り合わずにあさひをベッドにそっと下ろすと、すかさずあさひを組み敷いた。

「もう待てない」

 返事に詰まったところをすかさず耳を甘噛みされ、あさひは体を跳ねさせた。
 耳から首筋へ、さらに凌士の唇は下へおりて、鎖骨のまろやかな線をゆっくりとなぞり上げる。
 そのたびに、甘い声が口をつく。
 シーツを握りしめれば、乱れた髪を凌士の手が梳く。
 今にも蕩けそうな目で見つめられた。

「俺はあさひを、決して泣かせない。だから安心して俺にぜんぶ預けろ」
「そんなこと言われたら……気持ちごと差しだすしかないじゃないですか」

 キスの隙間を縫って、泣きたくなるほど力強い言葉が降ってきた。

「そうしろと言っている。あさひを俺にくれ。誰かに取られるのはごめんだ」

 優しくも有無を言わさないとばかりに、ニットもインナーも脱がされる。あらわになった素肌を、骨ばった手がまさぐった。
 ひんやりとして気持ちいい。けれど、それだけ肌が熱を帯びているのだと思い知らされると、いたたまれなくなる。

 けれどそんなことを考えていられたのはほんの一瞬で、あさひは与えられる快楽に身をよじった。

(こんなの、おかしくなりそう)

 息が上がり、あさひは凌士の名前を切れ切れに呼んだ。応える凌士の顔も、普段と異なり心なしか切羽詰まって見える。
 抱き合うほど、暗がりを満たす空気が艶を帯びて濃やかさを増していく。

「凌士さん……っ」

 とうとう深い場所を貫かれたとき、あさひはシーツの上で艶めかしく肢体をくねらせた。
 一心に求められる喜びで、肌がすべて溶けだすのではないかと思いそうになる。

(わたしが……変えられてしまう)

 あさひの内で、いくつもの感情が複雑にまざり合う。
 困惑や怯えや……少しの期待と持て余すほどの歓喜も。それらがあふれて、目の奥が熱を持つ。

(この気持ちを、ぜんぶ差しだしてもいい?)

 人生の中でも最低の部類に入った、あの日からまだたった二ヶ月。まだほんのわずか、凌士に心を差しだすのに怖じる気持ちがないとはいえないのに。

「すみません。ちょっとだけ……泣きそうです」
「実はあさひの泣き顔も、けっこう気に入ってる。心配するな」

 凌士はまるで大したことではなさそうに、あさひの耳元に頭を屈めてつぶやく。
 濡れた頬を、凌士の唇が慰撫する。
 あふれた感情が、凌士の唇に吸いこまれていく。

(前に進んでもいい……)

 そう思わせてくれた凌士に全身を委ねる。あさひの胸はふたりの関係が変わっていく予感に甘く震えた。