「それにしては、めちゃくちゃ構われてない?」
「……っ」

 ぐっと喉が詰まると、絵美がその反応に食いついた。エビチリも野菜炒めも、いつのまにか手つかずだ。

「おっと、その顔はなんだか怪しいなあ。早く次のデートをして、如月さんを捕まえなきゃじゃん! もう日は決めてるの?」
「デートじゃないってば」

 あさひは、すっかり冷めてしまった麻婆豆腐をもそもそと口に運ぶ。察しのいい絵美が鼻白んだ。

「さてはまだ連絡してないな? 連絡先もらったんでしょ? なんで」
「……ねえ、絵美。怖いって思うのは……変なのかな」

 凌士自身が怖いのとは違う。彼と過ごして、思いのほか楽しかったのはたしかだ。

 けれど、楽しかった分だけ戸惑いが消せない。

 凌士が御曹司だから気が引ける、というのもないわけじゃない。
 だけど、彼の仕事への姿勢や考えかたに触れて、上司として尊敬した。自分もそうありたいと願った。だからこそだと思う。

(そんなひとがわたしを気遣ってくれる理由が、わからないし)

 次の誘いを受けたときこそ凌士のためになるかもと了承したものの、週が明けて上司としての彼を見たら、正気にならざるを得なくて。
 それで、そのまま連絡しそびれてしまった。