「そんなに恐れられると、まるで俺が会社で恐怖政治を敷いているようだな。まあ今日は緊張するな、休日だ」
くくっ、と笑った凌士は、今日はカットソーとデニムのコーディネートに上質そうなカーディガンを羽織っている。足元はドライビングシューズ。ラフながら品が感じられるのは、凌士自身に品があるからだろう。とはいえ日ごろスーツ姿しか見る機会がないので、親しみやすく見えていい。
そんなことをぼんやり考えていると、凌士の視線を感じた。
「今日はいつもと印象が違うな」
「そうですか?」
あさひは細身のデニムに、ざっくりしたロングニットを合わせた自分の格好を見おろす。万が一あさひが運転する場合も考え、足元はぺたんこのパンプスだ。
「ああ、いいな」
真顔で言われたので、あさひは一瞬返す言葉を失った。
「……えっと、ありがとうございます。動きやすさ重視で考えたので、運転を替わってほしいときはいつでもおっしゃってくださいね」
戸惑いつつ、さっそく車に乗りこむ。凌士の車は、自社のSUVでも最高級ラインのものだ。ロイヤルブルーのボディは流線型で美しい。
車は凌士のたしかなハンドルさばきで、滑るように走りだした。
「今日はどちらに行かれるんですか? 教えてくださらなかったので、すごく考えたんですよ」
「どこだと思う」
今日の凌士は機嫌がよさそうだ。車の運転が好きなのだろう。
「うーん、海ですか」
「次はそうするか」
さらりと言う。次。考えだすとペースが狂いそうだ。あさひは深く考えないことにした。
「……じゃあ、山ですか?」
「近いな。坂だ」
疑問は、実際に坂にさしかかったときに氷解した。紅葉で有名な坂だ。と同時に、そのカーブの多さでも知られている。
車でなければ見られない景色のため、あさひはこれまでテレビなどで目にはしても、実際に紅葉狩りを楽しんだことはなかった。
紅葉は、いくつものカーブを登る道沿いで見られるという。シーズン真っ只中の休日でもあり、たくさんの車が行き交う。
「統括が、紅葉狩りを楽しまれるなんて意外でした」
「俺をなんだと思っているんだ。仕事を離れてまで、鉄ではないぞ。それから、統括という呼びかたはやめてくれ。休息にならない」
「じゃあ、如月さんでしょうか?」
「それは社名だろう。それこそ仕事を思い出してしまう」
それはそうですけれど、とあさひは口ごもった。ではどう呼べばいいのだろう。
あさひはためらってから、若干の気恥ずかしさを抱きつつも思いきって口を開いた。
「じゃあ……凌士さん?」
くくっ、と笑った凌士は、今日はカットソーとデニムのコーディネートに上質そうなカーディガンを羽織っている。足元はドライビングシューズ。ラフながら品が感じられるのは、凌士自身に品があるからだろう。とはいえ日ごろスーツ姿しか見る機会がないので、親しみやすく見えていい。
そんなことをぼんやり考えていると、凌士の視線を感じた。
「今日はいつもと印象が違うな」
「そうですか?」
あさひは細身のデニムに、ざっくりしたロングニットを合わせた自分の格好を見おろす。万が一あさひが運転する場合も考え、足元はぺたんこのパンプスだ。
「ああ、いいな」
真顔で言われたので、あさひは一瞬返す言葉を失った。
「……えっと、ありがとうございます。動きやすさ重視で考えたので、運転を替わってほしいときはいつでもおっしゃってくださいね」
戸惑いつつ、さっそく車に乗りこむ。凌士の車は、自社のSUVでも最高級ラインのものだ。ロイヤルブルーのボディは流線型で美しい。
車は凌士のたしかなハンドルさばきで、滑るように走りだした。
「今日はどちらに行かれるんですか? 教えてくださらなかったので、すごく考えたんですよ」
「どこだと思う」
今日の凌士は機嫌がよさそうだ。車の運転が好きなのだろう。
「うーん、海ですか」
「次はそうするか」
さらりと言う。次。考えだすとペースが狂いそうだ。あさひは深く考えないことにした。
「……じゃあ、山ですか?」
「近いな。坂だ」
疑問は、実際に坂にさしかかったときに氷解した。紅葉で有名な坂だ。と同時に、そのカーブの多さでも知られている。
車でなければ見られない景色のため、あさひはこれまでテレビなどで目にはしても、実際に紅葉狩りを楽しんだことはなかった。
紅葉は、いくつものカーブを登る道沿いで見られるという。シーズン真っ只中の休日でもあり、たくさんの車が行き交う。
「統括が、紅葉狩りを楽しまれるなんて意外でした」
「俺をなんだと思っているんだ。仕事を離れてまで、鉄ではないぞ。それから、統括という呼びかたはやめてくれ。休息にならない」
「じゃあ、如月さんでしょうか?」
「それは社名だろう。それこそ仕事を思い出してしまう」
それはそうですけれど、とあさひは口ごもった。ではどう呼べばいいのだろう。
あさひはためらってから、若干の気恥ずかしさを抱きつつも思いきって口を開いた。
「じゃあ……凌士さん?」



