駅に着く。凌士は社長に呼ばれたとかで会社に戻るというので、ここで解散だ。
改札周辺の煌々とした明かりやざわめきが、あさひを現実に引き戻す。
自分でも説明のつかない名残惜しさに首をかしげながら、あさひは改札の手前で足を止めた。
背筋を伸ばして深くお辞儀をする。
「ありがとうございました。二度もご馳走になって……そうだ、先日の件と合わせてなにかお礼をさせてください。ぜひ! なにがいいですか?」
「付き合わせたのは俺だが。しかし、そうだな。ならドライブに付き合ってくれ。週末は空いてるか?」
奢られてばかりでは心苦しいという意思を、さらりと汲んでくれる。さすが、あさひより八歳も上の大人だ。
けれど、思いもよらない申し出を理解するのにはわずかに時間がかかった。
「土日とも終日空いてますが、ドライブ? そんなのでいいんですか?」
「それがいいと言っている」
「わかりました」
流れで連絡先を交換する。上司とプライベートの連絡先を交換するのはふしぎな気分だけれど、嫌じゃなかった。
「土曜日、迎えにいく。気をつけて帰れ」
凌士がその目をふいに優しく細め、あさひはわけもなくどきりとした。
悩みに悩んで決めた服を着てメイクを終えてからも、あさひはぐずぐずと鏡の前で悩み続けていた。上司の前で失礼にならないラフさの程度が難しい。
(それより、やっぱりわたしが統括の家の近くまで行くほうがよかったんじゃ……)
上司、それも直属ではない雲上人に迎えにこさせるのは、どうにも恐縮してしまう。あれこれ思い悩んでいると、インターホンが鳴った。あさひは思わず「ひっ」と妙な声を上げてしまった。
おそるおそるインターホンに出ると、マンションのエントランスに立つ凌士がモニターに映しだされる。
「おはよう。用意はできているか?」
「はい! すぐ行きます」
あさひはそそくさとハンドバッグを手にし、うなじの上でまとめた髪が崩れていないか確認してから部屋を出た。心持ち早足でマンションのエントランスを出る。来客用の駐車スペースに、凌士が車を停めて寄りかかっていた。
「おはようございます。お待たせしました」
「すぐに来たじゃないか」
「統括を待たせるなんて、一分でも怖いです」
改札周辺の煌々とした明かりやざわめきが、あさひを現実に引き戻す。
自分でも説明のつかない名残惜しさに首をかしげながら、あさひは改札の手前で足を止めた。
背筋を伸ばして深くお辞儀をする。
「ありがとうございました。二度もご馳走になって……そうだ、先日の件と合わせてなにかお礼をさせてください。ぜひ! なにがいいですか?」
「付き合わせたのは俺だが。しかし、そうだな。ならドライブに付き合ってくれ。週末は空いてるか?」
奢られてばかりでは心苦しいという意思を、さらりと汲んでくれる。さすが、あさひより八歳も上の大人だ。
けれど、思いもよらない申し出を理解するのにはわずかに時間がかかった。
「土日とも終日空いてますが、ドライブ? そんなのでいいんですか?」
「それがいいと言っている」
「わかりました」
流れで連絡先を交換する。上司とプライベートの連絡先を交換するのはふしぎな気分だけれど、嫌じゃなかった。
「土曜日、迎えにいく。気をつけて帰れ」
凌士がその目をふいに優しく細め、あさひはわけもなくどきりとした。
悩みに悩んで決めた服を着てメイクを終えてからも、あさひはぐずぐずと鏡の前で悩み続けていた。上司の前で失礼にならないラフさの程度が難しい。
(それより、やっぱりわたしが統括の家の近くまで行くほうがよかったんじゃ……)
上司、それも直属ではない雲上人に迎えにこさせるのは、どうにも恐縮してしまう。あれこれ思い悩んでいると、インターホンが鳴った。あさひは思わず「ひっ」と妙な声を上げてしまった。
おそるおそるインターホンに出ると、マンションのエントランスに立つ凌士がモニターに映しだされる。
「おはよう。用意はできているか?」
「はい! すぐ行きます」
あさひはそそくさとハンドバッグを手にし、うなじの上でまとめた髪が崩れていないか確認してから部屋を出た。心持ち早足でマンションのエントランスを出る。来客用の駐車スペースに、凌士が車を停めて寄りかかっていた。
「おはようございます。お待たせしました」
「すぐに来たじゃないか」
「統括を待たせるなんて、一分でも怖いです」



