あさひは思いがけない謝罪に目をしばたたいた。
「どうして、統括が? ご迷惑をおかけしたのはわたしです。すっかり寝てしまって、申し訳ございませんでした」
「いや、部下には拒否権がないようなものだろう。誓って無理やり連れ帰ったわけではないが、そう取られてもおかしくなかった」
凌士が苦々しそうに眉を寄せる。しばらくその顔を見ていたら、小さく噴いてしまった。
「ひどい醜態をお見せしたので、統括に失望されたと思っていました。今日、職場で目が合ったときも、にらまれましたし」
「いや、俺はなにも見なかった。それに職場でのあれは、どう切りだすべきか考えていただけだ。碓井こそ、露骨に目を逸らしただろう」
「あれは、恥ずかしい姿を知られてしまったので気まずくて……すみません」
「謝らなくていい。俺はなにも知らない」
「……ありがとうございます」
ベッドまで貸しておいて、泣き顔を見なかったはずはないと思う。それでも見ていない、知らないという凌士の気遣いに救われる。
「統括のおかげで、土日は泣かずに済みました。話を聞いてくださって、ありがとうございました。……ここ、すごくいい場所ですね。わたしもこれから、ときどき食べにきてもいいですか?」
「ああ。あのバーもいい店だろう。使え。上司と鉢合わせするのが嫌じゃなければ、だが」
「まさか、嫌だなんて」
「すまない、今のは否定を誘導する手口だったな」
凌士が自嘲気味に笑って、湯呑みに口をつける。本心からだったのに、とあさひは心の内で返答して自分にうろたえた。
あさひの動揺には気づかない様子で、凌士が続ける。
「ただし、もうあんな無茶な飲みかたはするな。ああいう飲みかたがしたいなら、俺を呼べ」
「統括を付き合わせるなんて、恐れ多いですよ。でもお気遣いありがとうございます。やけ酒どころか、しばらくは禁酒します」
「そうか」
あさひたちはくつろいだ気分で店をあとにした。
昼間の陽気はどこへやら、外はぐっと冷えこんでいる。凌士について駅への道を歩きながら、あさひは薄手のコートの前をかき合わせた。
凌士と並ぶと、視線を斜めに上げた先に形のよい耳が見える。背が高い、とあらためて思う。姿勢がよいのでよけいにそう感じるのかもしれない。
「どうして、統括が? ご迷惑をおかけしたのはわたしです。すっかり寝てしまって、申し訳ございませんでした」
「いや、部下には拒否権がないようなものだろう。誓って無理やり連れ帰ったわけではないが、そう取られてもおかしくなかった」
凌士が苦々しそうに眉を寄せる。しばらくその顔を見ていたら、小さく噴いてしまった。
「ひどい醜態をお見せしたので、統括に失望されたと思っていました。今日、職場で目が合ったときも、にらまれましたし」
「いや、俺はなにも見なかった。それに職場でのあれは、どう切りだすべきか考えていただけだ。碓井こそ、露骨に目を逸らしただろう」
「あれは、恥ずかしい姿を知られてしまったので気まずくて……すみません」
「謝らなくていい。俺はなにも知らない」
「……ありがとうございます」
ベッドまで貸しておいて、泣き顔を見なかったはずはないと思う。それでも見ていない、知らないという凌士の気遣いに救われる。
「統括のおかげで、土日は泣かずに済みました。話を聞いてくださって、ありがとうございました。……ここ、すごくいい場所ですね。わたしもこれから、ときどき食べにきてもいいですか?」
「ああ。あのバーもいい店だろう。使え。上司と鉢合わせするのが嫌じゃなければ、だが」
「まさか、嫌だなんて」
「すまない、今のは否定を誘導する手口だったな」
凌士が自嘲気味に笑って、湯呑みに口をつける。本心からだったのに、とあさひは心の内で返答して自分にうろたえた。
あさひの動揺には気づかない様子で、凌士が続ける。
「ただし、もうあんな無茶な飲みかたはするな。ああいう飲みかたがしたいなら、俺を呼べ」
「統括を付き合わせるなんて、恐れ多いですよ。でもお気遣いありがとうございます。やけ酒どころか、しばらくは禁酒します」
「そうか」
あさひたちはくつろいだ気分で店をあとにした。
昼間の陽気はどこへやら、外はぐっと冷えこんでいる。凌士について駅への道を歩きながら、あさひは薄手のコートの前をかき合わせた。
凌士と並ぶと、視線を斜めに上げた先に形のよい耳が見える。背が高い、とあらためて思う。姿勢がよいのでよけいにそう感じるのかもしれない。



