「雰囲気だけで美味しそうですね……統括部長は常連なんですか」
「家族ぐるみで世話になっててな。父が忙しくて家に帰れないときは、母が俺と弟を連れてここで集合して夕食、ということをよくやっていた。だから、家庭料理といえばこの味かもしれない。自分で作るときにも参考にしている」
「えっ! 料理されるんですか」
外食が家庭料理という家庭事情にも驚いたけれど、料理をする凌士の姿が想像できない。
「驚くほどか? 頻繁ではないが、一般的なものは作れる」
「天から与えられるのは二物まででいいんですよ。わたしが打ちのめされます……」
「二物?」
「生まれと容姿と……あ、二物じゃなくて三物ですね。仕事もお出来になるわけですし」
「『鋼鉄の男』だろう?」
凌士がふっと唇の端を上げる。
「ご存じでしたか」
「名付けたやつは、ネーミングセンスがないな。うちの製品の名付けは任せられない」
嫌味はなくて、純粋に楽しそうだ。
職場では見たことのない、やわらいだ表情をする。
あさひは小さく心臓が跳ねたのを疑問に思いつつ、運ばれた定食に箸をつけた。
「んんんっ、なにこれ、すっごくおいしい!」
出された煮付けは甘めの煮汁が身によく絡んで、ご飯が進む。メバルのあらで出汁を取ったという汁物も、小鉢のなますも、ほっと体に染みこんでいく味だ。あさひはひと口ごとに歓声を上げる、うるさい客になってしまう。
一方、凌士は小さく笑うと黙々と箸を動かし始めた。刺身に舌鼓を打つ表情から、おいしさが伝わってくる。黙々と綺麗に箸を使う様子に、あさひは自分も食べながらこっそり見入った。
凌士は御曹司なのだとあらためて思わされる。隣で食事をしているこの状況がふしぎなくらいだ。
気持ちよく完食して、あさひは食後のお茶を飲む凌士に向き直る。
「統括」
しかし、口を開いたのは凌士のほうが早かった。
「先週は悪かった。自宅はまずかった。気分を害しただろう、謝る」
「家族ぐるみで世話になっててな。父が忙しくて家に帰れないときは、母が俺と弟を連れてここで集合して夕食、ということをよくやっていた。だから、家庭料理といえばこの味かもしれない。自分で作るときにも参考にしている」
「えっ! 料理されるんですか」
外食が家庭料理という家庭事情にも驚いたけれど、料理をする凌士の姿が想像できない。
「驚くほどか? 頻繁ではないが、一般的なものは作れる」
「天から与えられるのは二物まででいいんですよ。わたしが打ちのめされます……」
「二物?」
「生まれと容姿と……あ、二物じゃなくて三物ですね。仕事もお出来になるわけですし」
「『鋼鉄の男』だろう?」
凌士がふっと唇の端を上げる。
「ご存じでしたか」
「名付けたやつは、ネーミングセンスがないな。うちの製品の名付けは任せられない」
嫌味はなくて、純粋に楽しそうだ。
職場では見たことのない、やわらいだ表情をする。
あさひは小さく心臓が跳ねたのを疑問に思いつつ、運ばれた定食に箸をつけた。
「んんんっ、なにこれ、すっごくおいしい!」
出された煮付けは甘めの煮汁が身によく絡んで、ご飯が進む。メバルのあらで出汁を取ったという汁物も、小鉢のなますも、ほっと体に染みこんでいく味だ。あさひはひと口ごとに歓声を上げる、うるさい客になってしまう。
一方、凌士は小さく笑うと黙々と箸を動かし始めた。刺身に舌鼓を打つ表情から、おいしさが伝わってくる。黙々と綺麗に箸を使う様子に、あさひは自分も食べながらこっそり見入った。
凌士は御曹司なのだとあらためて思わされる。隣で食事をしているこの状況がふしぎなくらいだ。
気持ちよく完食して、あさひは食後のお茶を飲む凌士に向き直る。
「統括」
しかし、口を開いたのは凌士のほうが早かった。
「先週は悪かった。自宅はまずかった。気分を害しただろう、謝る」



