いや、殴ったわけではない。法律でボコボコにしたそうだ。健斗さんは最初、殺人未遂だから任せろと言っていた。量刑ぎりぎりの重いやつにしてあげようとほくそ笑んでいた。怖すぎる。

 「新藤家に刃向かうとどうなるか思い知らせてやる」

 海斗のお父さんも、お母さんも、おじいさんまでも、健斗さんのその言葉にうんうんとうなずいていた。なんてことだ。あの家の人達に逆らうのはやめたほうがいいということはよくわかった。

 三ヶ月後、約束通り私はアメリカへ行った。海斗の誕生月、十月の終わりだった。アメリカで何か買ってあげたいと思っていた。何がいい?と聞いたら、あろうことか、ものよりも茜の料理がいいと言う。
 
  「とにかく、お前のご飯が恋しかった。茜の入院しているときは、食欲が減退していたせいで平気だったけど、こっちに来たら大学時代はハンバーガー大好きだったはずなのに、お前の麻婆豆腐が無性に食べたくなったりする。考えると落ち着かないんだ」

 「別にいいけど、材料と調理器具とかあるの?」

 「足りない物は買えばいいよ。マーケットに寄っていこう」