高梨の提案だが、俺ひとりがイヤだと断ることでもないだろうから、一応事務所のトップである爺さんの耳に入れるとしよう。爺さんは高梨の話を聞いた後、話をすぐに差し替えてきた。
 
 「海斗。それより、茜さんとのことは会長宅へ言って話してきてどうなった?」

 「爺さん、会長から話を聞いてるんじゃないのか?」

 「お前に提案したと言われた。何を提案された?」

 あの会長も食わせものだ。うちの爺さんと長い付き合いだし、どう言えば爺さんが折れるか知っている。

 「社長はまだ高梨工業の噂が耳に入っていなかったようだ。俺との縁談は蓮見の家のために最後まで反対していた。会長は社長が離席したとたん、変な提案をしてきた」

 「……なんだ?」

 「俺と茜を結婚させる代わりに、いずれ社長になれといわれた」

 「……会長はお前に会ってみて、即決したんだろう。さすが経営者。人を見る目はある。お前の素質を見抜いて適性があると判断したんだな」