高梨工業の三男坊と茜との縁談話を聞いたときはショックだった。
 だが、茜を渡す気はさらさらなかったので、乗り込んで一勝負やっと終わったところだった。
 
 社長は俺を認めようとしていなかったが、もくろみが外れたとはこのことだろう。高梨本人は合格点を出すほどのいい奴だったが、親の会社がまずかった。

 俺個人にとってはありがたい展開だった。おそらく、縁談は立ち消えになるだろう。だが、別な問題が浮上した。蓮見商事の顧問弁護士となった今、取引先の不祥事は笑えない事態だ。しかも総会前。最悪だ。

 茜には黙っていたが、実は今日高梨から連絡をもらった。なんと、実家の弁護士が使い物にならないから、俺がダメなら事務所で面倒をみてくれないかという話だった。

 まさか、あいつからそんなこと頼まれるとはつゆほども思っていなかったし、兄貴から高梨工業の噂を聞いた段階ですっかりあいつとは切れたと安心していた。あいつは俺が茜の許嫁だとは知らないからな。

 そういえば兄貴が言うには、蓮見の社長のほうが問題だと言っていた。よく調べもしないでそんな縁談を持って来るなんて、愚かだと……
 
 確かにその通りだ。今まで蓮見会長はうちの爺さんに相談をして、相手の会社について情報を得ていた。だが、あの社長ときたら、自分ひとりで部下の話を聞いて決めてしまう。だからこういうことが起きる。