彼女はほとんど笑わなくなり、いつも眉間に皺を寄せるようになった。
仲が拗れたままアカデミーを卒業し、国の最高教育機関の王立学園に入学したが、エルヴィアナは変わらなかった。
「エルヴィアナ。次の園遊会のことで話があるんだが」
「ごめんなさい、今急いでるからまた今度にして」
クラウスが話しかけてもすぐどこかに行ってしまい、その周りには別の男の姿が。
「レディ、どこへ行っていらっしゃったのです?」
「荷物をお持ちします!」
クラウスのことは極端に避けてばかりなのに、他の男が寄ってくることは許すというのだろうか。
最初はただ信じられない、という思いだった。けれどそれが何年も続けば、彼女の変化を自然と受け入れてしまった。心のどこかで、いつか元の誠実な彼女に戻ってくれると信じて……。
エルヴィアナの悪い評判は、いつしか両親の耳にも入り、婚約の解消をしてはどうかと幾度となく言われた。だがクラウスはそれを拒否した。エルヴィアナから別れてほしいという意志を聞くまで、自分からは引けなかった。
「クラウス様。この間園遊会のことで相談があるとおっしゃってたわよね。どうしたの?」
「実は当日、国賓の前でスピーチを任された。君も同行してもらうから、その報告だ」
「まぁ、凄いじゃない! クラウス様は異国語の発音も綺麗だものね。きっとうまくいくわ」
冷たく返されるかと思いきや、優しく目を細め喜んでくれる彼女。
(ああ、だめだな。俺は)
不意に優しくされると、どうしようもないくらい舞い上がってしまう。また好きになる。エルヴィアナの心が自分にはないのだと分かっていても、期待してしまう。
黙り込んでいると、彼女がこちらの顔を覗き込んで首を傾げた。
「どうしたの? 黙り込んで。さては今から緊張しているんでしょ」
「――好きだ。君は今、俺のことをどう思っている?」
「…………!」
そう尋ねれば、彼女はひどく悲しそうな顔をして。
「ごめん……なさい、わたし……。わたしは……」
彼女は右腕を擦りながら、目を泳がせた。しばらく言葉に迷ったあと、クラウスに対する想いを語ることはなく、「授業が始まるから」と言い訳をして逃げて行ってしまった。一人取り残されたクラウスは、下唇を噛んだ。――どうして何も言ってくれないのだろう、と。悪いところがあるなら教えてほしい。嫌いになったのなら、もう一緒にいたくないとはっきり言ってほしい。そうしたら、諦めがつくのに。



