エルヴィアナが友人たちと楽しそうに話しながら歩いていくのを、眩しく思いながら眺めていたら、彼女がこちらの存在に気がついた。

「ごめん、みんな先に行ってて?」
「はーい」

 そう言ってグループから抜け出し、こっちに来る。

(……綺麗だ)

 優雅に歩く姿はまるで花のようだった。どんなときも余裕があり、洗練された振る舞いをする彼女。エルヴィアナは同じ年の子どもたちよりどこか大人びていた。風に吹かれて長い黒髪がはためくさまに、息を飲む。

 彼女はクラウスの目の前に立ち、前髪を耳にかけながら尋ねてきた。

「こんなところで何をなさっているの?」
「…………それは」

 クラウスは気まずそうに目を逸らした。

「一人反省会だ」
「一人反省会」

 絶対に馬鹿にされる。そう覚悟したが、彼女は笑ったりせずに隣に腰を下ろした。座る瞬間、ふわりと甘い香りがした気がしてどきっとする。なぜかエルヴィアナが近くにいるときは緊張するし、やたらと血圧が上がる気がする。
 ……これは後になって気づいたことだが、このころから多分、彼女のことを異性として意識はしていたのだと思う。

「それで? 何を反省していたの?」
「自分の社交性のなさをだ」
「なるほど」
「エルヴィアナは凄いな。いつも誰かに囲まれている」

 エルヴィアナはうーんとしばらく考えてから言った。

「わたし、勉強って凄く苦手。体を動かすことも苦手。でも絵を描いたり刺繍をしたり、手先の作業はとても得意なの」

 確かに彼女は、地頭は悪くないと思うが、勉強が得意というイメージはない。ただ、とても器用で、刺繍をやらせても絵を描かせても大人顔負けで、先生たちによく褒められている。ついでに楽器も得意だし、矢を射るのまでうまい。

「……それがどうかしたか?」
「クラウス様は勉強がとても得意よね。座学だけでなく、武術も優秀だし。あ、でも絵心はあんまりないわね。字は流麗だけれど」
「……」
「わたしは短絡的で感情的だから失敗しやすい。その点、クラウス様は物事を俯瞰で見ていて理性的だと思うの」
「確かに君は、よく喧嘩したり教師に叱られたりしているな」
「う……それは内緒で」

 意外と彼女はクラウスのことをよく知っていて驚いた。