小指を引っ掛けて指切りし、そんなやり取りを昔に交したのを思い出した。
 クラウスはつつじ色の眼差しでこちらを見据えて言った。

「俺はエリィが好きだ。ずっと一緒にいたいと思っている。……受け取ってくれるか?」

 エルヴィアナは感極まって泣きそうになりながら、こくこくと首を縦に振った。クラウスはエルヴィアナの細い手を取り、指輪を左手の薬指に通した。

 小指で交した約束が、薬指の指輪に変わった。

 薬指で宝石がきらきらと繊細な輝きを放っている。光り輝く指輪をそっと撫でながら、エルヴィアナも屈託のない笑みを湛えた。

「わたしも――大好き」

 そうして二人は、魅了魔法の力に依らない甘い時間を過ごしたのだった。



 ◇◇◇



 デートから帰った夜。クラウスは自室で机を眺めていた。机には、エルヴィアナが作ってくれたアイシングクッキーと、彼女が作ってくれた花冠が並んでいる。腕を組みながら思案し、これは家宝にしようと決意する。

 以前、エルヴィアナに取ってもらった糸ぼこりを大事に保存していたら、本人にドン引きされてしまったが、彼女もクラウスが摘んだ花をずっと残していた。ほとんど同じようなものだとクラウス的には思っている。
 何より、エルヴィアナが自分との思い出を残そうとしてくれたことが嬉しい。

 机に頬杖を着き、目を閉じながら今日のエルヴィアナを思い出す。

(可愛かったな)

 今日一日、クラウスの前でころころと色んな表情を見せてくれた。特に、クッキーを食べさせてあげたときの彼女の照れた反応は、天才的に可愛かった。もちろんどの瞬間を切り取っても世界一可愛いのだが。

 芸術品のようなクッキーを見下ろしながら、これは食べられないなと思った。もったいなくて。作ってくれた花冠は、乾燥させて部屋に飾っておこう。

 今日の思い出に浸りつつ、クラウスは遠い昔のことを思い出した。


 ――アカデミー時代のことを。