「そうだ。クラウス様にお渡ししたいものがあるの」

 持ってきた鞄を探って箱を取り出して渡す。可愛くラッピングしてあるリボンを覚束ない手つきで解き、蓋を開ける彼。

 箱の中には、パステルカラーのアイシングクッキーが収まっている。花をモチーフに、精緻を極めた模様が描いてある。

「凄いな。芸術品みたいだ」

 クラウスは目を見開き、感嘆の息を漏らした。昨日一日かけて作った大作なので、褒めてくれて嬉しい。

「これはマーガレットで、こっちはバラだな。これは――」
「ガーベラね」
「よく出来ている。立体に絞るのは難しいんじゃないか?」
「慣れれば結構簡単よ」

 最初は難しいが、数を重ねたら誰でも上達する。好きこそ物の上手なれ、だ。

「君は器用だな。ありがとう、一生大切にする」
「一生……」

 壊れ物を扱うように、慎重に蓋を閉じようととするクラウス。クッキーなので一生取っておくことはできないと思うのだが。

「ここで食べてくれないの?」
「なくなってしまうのが惜しくてな」

 それを聞いて、エルヴィアナはくすと笑う。これは多分、放っておいたらいつまでも食べられなくなるパターンだ。

「またいつでも作るわ。せっかくだから感想を聞きたいのだけれど」
「分かった」

 あえて今食べるように促す。クラウスは閉じかけた蓋をもう一度開き、どれを食べようか悩み出した。一分、二分、三分……と、時間が過ぎていく。急かすのは悪いと思い待っていたが、十分経過してとうとう痺れを切らしたエルヴィアナは、箱の中のクッキーをひとつ指差した。

「これがオススメ」

 指差したのは、つつじの花と葉のリースを描いたクッキー。中央には『いつもありがとう』のメッセージが書いてある。クラウスは無表情のまま、こちらに箱を差し出して言った。