「お待たせしたわね。クラウス様」

 クラウスは見るからに弱ったエルヴィアナの姿を見て眉をひそめた。

「身体の調子は……どうだ?」
「まぁまぁよ」

 お見舞いに果物のかご盛りを渡され、リジーが丁寧に受け取る。

「何か召し上がりますか?」
「りんごを」
「分かりました」

 クラウスとエルヴィアナはテーブルを挟んで向かい合って座った。その横でリジーが茶を用意し、りんごの皮を剥き始めた。

 今回の騒動でルーシェルは学園を休学した。エルヴィアナも体調不良で休学中。クラウスは学園の制服を着たまま、毎日のようにエルヴィアナの屋敷にお見舞いに来た。

 エルヴィアナは温かい紅茶を一口飲み、カップをテーブルに置いた。
 クラウスはエルヴィアナのことが余程気がかりらしく、表情がかなり暗い。

「――もし、元気になったら」
「……なったら?」

 伏せていた目をこちらに向けて、首を傾げるクラウス。

「一緒に出かけたいわ。かごに美味しいご飯を入れて、景色が綺麗なところにピクニックに行きたい」
「もちろん。いい場所を探しておこう」

 少しだけ硬い表情が柔らかくなったのを見て安心する。エルヴィアナはぎこちなく笑みを返した。
 お弁当を作ったら喜んでくれるだろうか。そもそも、エルヴィアナは彼の好きなものをほとんど知らない。

「サンドイッチの具は何が好き?」
「強いて言えばたまご……だろうか。いやでも俺は君が作ってくれたものならなんでも――」
「あ、分かりました結構です。それじゃあ好きなお菓子は?」
「菓子にはあまり詳しくないが、昔エリィが作ってくれたマドレーヌは美味しかった」
「マドレーヌなんて作ったことあったかしら」
「七年と27日前だ」
「こわい」
「とにかく、俺は君が作ってくれたものはなんでも――」
「あ、分かりました結構です」

 そのあとに長々と続きそうな言葉は容易に想像できる。エルヴィアナへの賛辞は耳にたこができるくらい聞き飽きているので途中で遮る。