ルーシェルは魔獣に襲われて大怪我をした。特に、顔に大きな傷ができて、八針も縫った。宮廷医からは、傷が癒えても傷跡は残ると言われた。
 社交界は常に足の引っ張り合い。女たちは互いに粗を見つけようといつも目を光らせている。目に見える傷は好奇の対象になるだろう。

 ルーシェルはそのことで相当ショックを受けたが、心配してくれる人はいなかった。

 侍女のセレナは、今回の騒動で、慰謝料という名目で多額の口止め料を王家から支払われて、ルーシェルの元を去って行った。
 国王はルーシェルの浅はかな行動に怒り心頭。国王は学園を休学して二年謹慎するように命じてきた。

(どうしてわたくしがこんな思いを……)

 自室で一人きり。寝台の上で、手鏡を眺める。顔に巻いた包帯に血が滲んでい痛々しい。鏡を壁に投げつけたあと、ぎゅうとシーツを握り締めて、歯ぎしりした。



 ◇◇◇



 イリト王国王女が魔獣を飼っていたことは世間に露見しなかった。もしこの件が外に漏れていたら、民衆は大混乱だっただろう。魔獣は未だに逃亡中。騎士団が総出で捜索しているところだ。

「お嬢様。クラウス様がいらっしゃいましたよ。こちらにお通ししますか?」
「いえ。わたしが応接室に行くわ」
「で、ですが……無理はなさらない方が……」
「平気よ」

 脱走した魔獣はまだ見つかっていない。騎士団が探しているが、手がかりひとつ掴めていない。その間にエルヴィアナはどんどん生命力を吸い取られて憔悴していった。

 ドレスに着替えて応接間に行く。どうしても好きな人の前では綺麗な姿でいたくて、寝巻きのままではいられず、無理に身支度を整えた。