「今までずっと世話してくれてありがとう。手のかかる主人でごめんなさいね」
「……本当ですよ。頑固で意地っ張りで、素直じゃなくて……」

 泣きそうな顔を浮かべて、エルヴィアナの手を握る彼女。

「不器用で、誰よりも――優しい自慢の友人です」

 彼女の家が没落する前から、二人は親友だった。体裁があるため主従関係として振る舞っているが、二人の絆は変わらない。

「幸せになってね」

 もう自分は長くない。いつかリジーは、エルヴィアナの元を離れていくのだ。それでいいと思っている。今のリジーは、一度の恩と情に縛られているから。すると、リジーは大きな瞳に涙を浮かべて首を横に振った。

「最後みたいな言い方しないでくださいよ。いつもみたいに、強気に笑ってください。そんな弱気なお嬢様……らしくない」
「先のことなんてどうなるか分からないでしょう。リジーにはね、わたしの世話ばかり焼いて若い時間を無駄にしてほしくないの」
「何、言うのよ。お嬢様に……エルヴィアナちゃんに助けてもらったときから、わたしはあなたのためになんだってするって決めたの。きっと逆の立場だったとしても、エルヴィアナちゃんはわたしの傍を離れたりしないよ」

 返す言葉が思いつかずに黙っていると、また扉がノックされた。

「どうぞ」

 返事をして中へと促せば、クラウスが入ってきた。クラウスが来たのでリジーが気を遣って部屋を出て行く。彼はエルヴィアナが起きているのを見て、安堵したように身を竦めた。

「目が覚めたんだな。よかった」

 もしかしたら三日の間、心配して度々見舞いに来てくれていたのかもしれない。

「迷惑をかけてごめんなさい」
「謝らなくていい」

 クラウスがそのままこちらに近づいて来るのを見て、はっとする。