「とうの昔に気付いていた。君の心が俺にないこと。いつかこんな風に、別れを切り出されるのではないかと思っていた。もう俺に希望はないのか? 俺を避けるばかりで、挽回する機会を与えてもくれないのか?」
「え……」

 切々とした声で告げられて、咄嗟に顔を上げると、クラウスは寂しそうな顔を浮かべていて。

(なんでそんな悲しい顔……)

 男をいつもはべらせている嫌われ悪女の婚約者に愛想が尽きて、王女に心変わりしたのではなかったのか。

 これではまるで、エルヴィアナを想っていて、関係修復を望んでいるようだ。
 エルヴィアナだって、叶うなら昔みたいに彼と仲良くしたい。別れたくない。でも自分のせいでこの人の足をこれ以上引っ張りたくもない。

「何……言ってるのよ。わたしのこと、軽蔑してるくせに」
「ああ。君は不誠実な人だ。婚約者がいながら他の男に脇見し続けた。……人して最低最悪だ。だが……」
「…………」

 ばっさりと告げられて、胸の奥が痛くなる。やっぱり、期待したところで無駄なことだ。嫌われているに決まっているのだから。

 気まずい沈黙の後、そのまままっすぐ見つめられ、彼の薄い唇が言葉を紡ぎかける。

「俺は君のことが、きら――」

(嫌、聞きたくない……)

 好きな人から「嫌い」だと告げられるのはダメージが大きすぎる。怖くなってぎゅっと瞼を閉じた刹那――。

 パアアアッ……。

 眩い光が離散し、はっとして目を開いた。目を開けていられないくらいの白い光に包まれた直後。

「君のことが、好きすぎる」

 ついさっき、嫌いだと言いかけていた相手から、全く逆の言葉を言われて、拍子抜けする。

「へっ」

 思わず変な声が出てしまう。

「――今なんと?」
「君のことが好きすぎる。傍にいると胸がときめいて仕方がない。抱き締めてしまいたくなる」
「!?!?」

 彼は「もっと近くで顔が見たい」などと訳の分からないことを言ってこっちに迫ってくる。クールで掴みどころのない彼からは考えられないセリフだ。それに、いつも頑なに動かない表情筋が緩みまくっていて、頬が上気している。

 これは、完全に――。

(クラウス様、魅了魔法にかかってる!?)