「分からないか? 俺は元々――君に惚れていたということだ」
「……!」

 嘘みたいだ。だってエルヴィアナは沢山の男と遊んでばかりで、裏切りを働いてきたのだから。

「じゃ、じゃあ、婚約解消しようとしたとき、君のことが嫌いって言おうとしたのは?」
「君の早とちりだ。……エリィがどんな悪女でも、嫌いにはなれない。そう言おうとした。別れるのは考え直してほしいと説得しようとしていた。君は人の話を最後まで聞かないところがある」
「ごもっともです」

 彼は、エルヴィアナのことを不審に思いながらも、理屈ではどうにもならない愛情を内側に抱えてきたのかもしれない。それを知ろうともせずに、エルヴィアナは逃げてしまった。

「それに、魅了魔法程度で吹き飛ぶほどヤワな理性ではない」
「だいぶ吹き飛んでいたわよ(過去話参照)」

 呆れ混じりの半眼を浮かべる。

「……あれは演技だ」
「嘘つき」

 さすがに瞳の奥にハートを浮かべてべったりくっついてきたのは、素だろう。多少なりとも魅了魔法の影響は受けていたのは間違いない。あれが演技だとしたら主演男優賞ものである。

 エルヴィアナはそっと地面に落ちた飾り紐を拾い上げて、土を手で払った。それをクラウスの剣の柄に結びつける。

「怪我、しないようにね」

 そのとき、エルヴィアナの髪を飾るクラウスと対の飾り紐のビーズが、陽光を反射してきらりと光った。