「……クラウス様は――わたしの魅了魔法にかかっているから」
「知っている」
それは、思いもよらない返事で。
「!」
思わず目を見開き、手に握り締めていた飾り紐が滑り落ちて地面に転がる。どうして、どうしてバレたのだろう。分からない。
「……ようやく話してくれたな」
色んな感情が込み上げてきて、目を泳がせる。
「どうして、」
「ずっと妙だと思っていた。君みたいな生真面目な女性が、遊びに耽けるなどありえない。それでも、俺がつまらない男だから愛想を尽かされたのだと考えていた。だが、婚約破棄を告げられた日。君が放った光を浴びた瞬間に気づいた。――呪いのことを」
そう言ってクラウスはこちらに歩んで来て、エルヴィアナの右腕を捲り上げた。魔獣に噛まれた痕が、古代文字のような痣になっている。彼はそれを見て悲しそうに眉をひそめた。
あのとき、腕から光を放ったのを見たクラウスは、エルヴィアナが13歳の狩猟祭のときに変わった獣に噛み付かれたのを思い出したという。その光と、原始の時代に存在していた魔法を結びつけて、調べることにした。
まずは、エルヴィアナの実家に行った。けれど両親も、エルヴィアナと一番親しいリジーも、腕の怪我にまつわる一切の沈黙を守った。
次に、エルヴィアナの主治医に聞きに行った。彼も、「エルヴィアナに口止めされている」の一点張りだった。そして最後に。神殿に行くと、気のいい神父がクラウスに全てを打ち明けたという。
――エルヴィアナは魔獣に噛まれたせいで、魅了魔法の呪いにかかり、命を削られているということ。そして、そのことでクラウスに負い目を感じさせないように、全て隠して平静を装ってきたこと。
「エリィが変貌していったのは、13歳の狩猟祭のころだった。今まで何も気づかず、君に不信感さえ抱いていた自分が情けない」
クラウスは鈍い人だ。それを分かっていて騙していたのはエルヴィアナで。悪いのは全部エルヴィアナなのに。
「すまない。俺のせいで君に苦しいものを背負わせてしまった。あのとき獣に構わなければ、呪いにかかることもなかった。全て俺のせ――」
「違うわ」
彼の両頬を手で包む。
「……エリィ」
そのまま首を横に振った。
「クラウス様はなんにも悪くないわ。わたしはね、あなたにそうやって自責してほしくなかったの」
どの道、エルヴィアナは助からないかもしれないのだ。なら、何も知らないまま、エルヴィアナを嫌いになったままお別れした方が悲しみも少ないと思ったのだ。不器用なりの優しさだったが、結局彼を傷つけてしまった。



