(でも待って。……一年以上前ってことはまだ魅了魔法にかかってないはず)
なのにどうして、エルヴィアナの贈り物(?)を大切に残していたのだろうか。さっぱり訳が分からない。
「糸ぼこりなんかより、もっと他に大事にしがいのあるものを贈るわ。何か欲しいものはある?」
「君からもらったものならなんでも宝だ」
「こういうとき、なんでもいいが一番困るのよ」
「……なら、次の狩猟祭で飾り紐がほしい。君の手作りの」
狩猟祭は毎年クラウスと共に参加しているものの、飾り紐を贈ったのは後にも先にも13歳のとき一度きりだった。まさかこうして彼からほしいと望まれる日が来るとは思いもしなかった。
「……考えておくわ」
飾り紐は、恋人や想い人に贈る特別なもの。果たして自分が彼に渡してもいいのだろうか。すると、エルヴィアナの気持ちを見抜いたように彼が言う。
「エリィが与えてくれるものは、俺にとって全て宝だ」
二度も言った。
「糸ぼこりでも?」
「ああ」
「……おかしな人ね」
「そうだな。君が好きすぎるあまり俺はばかになってしまうみたいだ。魔法みたいに」
「!」
魔法という言葉につい反応して、あからさまに顔を歪ませる。するとクラウスが片眉を上げる。
「魔法という言葉にやけに反応したな」
「べ、別に……」
「それになぜ君は不審に思わない? 新入生歓迎パーティーから――俺の態度がおかしいことに」
「え……」
まさかクラウスは、魅了魔法に勘づいているのでは。いや、そんなはずない。魅了魔法にかかった男は、誰一人として自分が魔法にかかっていることを知覚できなかった。露骨に目を泳がせていると、クラウスの鋭い眼差しがこちらを射抜く。
「あの日を境に、タガが外れたように君への気持ちに抑えが効かなくなった。魔法でしか説明ができないほどに」
「…………」
エルヴィアナは震える手を膝の上でぎゅっと握り締めた。彼だけには悟られたくない。これまでの努力が水の泡になってしまうのではないかと、額に汗が滲む。
「――なんてな。現代人に魔法が使えるなんて話、一度も聞いたことがない」
魔法が使える人は、とうの昔にいなくなった。きっとただの冗談だったのだと、安心して肩を竦めた。クラウスはあまり冗談を言うようなタイプではないのだけれど。



