二人で並んで講義を受ける。エルヴィアナとクラウスは、長らく学園内で不仲説が出ていた。だから、並んで座る様子を見た他の生徒たちに「何があったんだろう」とひそひそ内緒話された。

 けれど授業中、噂好きの生徒たちとは違う、熱っぽい視線を隣から感じた。

(気が散る……)

 クラウスが授業そっちのけでこちらを凝視してくる。チラ見ではなく凝視だ。恍惚とした瞳の奥には古典的なハートマーク♡が浮かんでいて。これでは鬱陶しくて全く集中できない。
 周りの生徒に聞かれないように、身を寄せて耳打ちする。

「前を見なさい前を」
「エリィと授業中に内緒話……」
「感激しなくていいから」
「すまない。勉強を頑張る君の横顔がキレイで見蕩れた」
「はいはい」

 ほのかに顔を赤くさせつつあしらう。今はこの人を相手にしている時間ではない。

「照れた顔も可愛い」
「そういうのいいから……本当」

 赤い顔をペンを持った腕で隠し、目を逸らした。あまり甘い言葉をかけられると、今度は違う意味で集中できなくなる。彼はふっと笑い、ようやく講義に集中し始めた。

 ノートに講義の内容を書き取るクラウス。紙に滑らせるペン先の音が聞こえてきて、少しだけ視線を向けて覗き見る。
 こんなに近くで顔を見る機会はあまりない。彼は、気づかないうちに随分大人びていて。伏し目がちな瞳に長いまつ毛が影を落とすさまは色っぽい。

(真剣な顔……格好いい……――ハッ!)

 我に返って首をぶんぶん横に振る。授業中に婚約者の横顔に夢中になってしまうなんて、とんだ体たらくだ。魅了魔法がかかっているならまだしも。