「ま、まさか。わたしが望んで彼らを傍に置いているのよ。だいたい、わたしは基本無愛想じゃない」

 エルヴィアナは、ぶっきらぼうでむすっとしているのがデフォルトだ。誰といたってこんな感じだ。

「そんなことはない」

 突然クラウスがこちらにずいと詰め寄って、見つめてきた。突然距離を詰められて、顔が熱くなる。すると彼は、エルヴィアナの胸ポケットから手鏡を引き抜いてかざした。

「エリィは俺といるときは、よく頬を赤くしているし、表情が豊かになる。俺も最近気づいたことだが」
「〜〜〜〜っ」

 丸型の手鏡に、紅潮した自分の顔が映っている。確かにこの表情は、クラウスにしか見せない顔だ。取り巻きの男たちだけでなく、彼以外の人には決して見せることのない……。
 咄嗟に鏡を押し離して、クラウスの端正な顔に押し付ける。

「それは、あなたにパーソナルペースってものがないからでしょ! 距離感が! 近いのよいつも!」

 彼に背を向けてすたすたと歩き出す。クラウスといると調子が狂って仕方がない。

 本当は、素直に甘えたいし、謝りたいことが沢山あるのに。不器用なエルヴィアナは冷たく突っぱねることしかできなかった。

 憤慨して歩いていくエルヴィアナの後ろ姿を見て、クラウスは愛おしそうに目を細め「困った人だ」と呟いた。