クラウスの誕生日会のあと、王城に帰ったルイスは真っ直ぐにルーシェルの部屋を訪れた。


「きゃあっ!」
「しっかりなさってください、王女様!」


 重厚な扉の奥から、物音と使用人の悲鳴が漏れ聞こえた。

(……またか)

 小さく息を吐けば、中から二人の使用人が辟易した様子で出てきた。彼女たちはルイスの姿を見つけて仰々しくお辞儀をする。

「お、王子様……」
「王女の様子は?」
「……相変わらずでございます。感情の起伏が激しく、物を投げたり壊したり……。それから、使用人のことを度々『クラウス様』とお呼びになって……」
「そう。いつもすまないね」
「い、いえ。仕事ですから」

 部屋にそっと入る。カーテンを閉め切った薄暗い部屋の、天蓋付きの寝台の上で、ルーシェルは膝を抱えて座っていた。抜け殻のようになってしまった彼女。陶器のようだった白い肌は荒れていて、絹のようだった髪も艶をなくして乱れている。俯いたままぶつぶつと独り言を言っているかと思えば、ルイスの存在に気づいてにこりと笑った。

「ようやくわたくしの元に来てくださったのですね。――クラウス様」

 ルイスは肩を竦め、彼女の元に歩み寄った。

「遂に兄のことも分からなくなったかい? 僕はルイスだよ」

 しかし、ルイスの言葉は彼女の耳には入らない。するりと痩せた腕が伸びてきて、頬を撫でられる。落ち窪んだ目を恍惚と細める表情に、背筋がぞくりとする。

「あの女はようやく死んだのですか?」
「…………」
「あの女――エルヴィアナさんのせいで、今までわたくしにはつれない態度を取られていたのでしょう? 本当はわたくしがお好きなのに……」

 ルーシェルは現実と妄想の区別もつかなくなってしまった。