ある日の放課後のこと。またもやいつも通りに委員の仕事で職員室から出て、鞄を取りに教室に戻る時のこと。

教室から声がした。女子生徒と男子生徒の口論の声。忍び足で近づき、ゆっくりと扉を開けて中を覗いてみた。

「あのな……俺は別にテメェのこと好きでもなんでもねぇんだわ」

どうやら紅斗くんと女子生徒だ。よくこういう場面に遭遇するけれど、私には運がないのだろうか。

「どうして!? 来る者を拒まずだった天寺紅斗が、どうしてワタシの告白を断るの!?」

「いやだから……勝手にテメェらが、んなあだ名を付けたんだろ? 俺にだって自由にする権利ぐらいあんだろ……大体、俺には“好きな人がいる”んだよ。分かったら、とっとと俺の前から消えろ」

優しい彼の面影はなく、冷たく女子生徒をあしらう姿に恐怖心を覚えた。相変わらず彼の裏が分からない。私にはあんな態度を取らないのに、他の女子生徒には冷たくする。

私は少なくとも彼には嫌われてないんだろう。その事実だけ、知ることが出来たように感じた。