真っ白な血

家までずっと彼は手を離さないでいてくれた。無言だったし静かだったけれど、居心地が良かった。

「紅斗くん……」

「ん?」

私はずっと下を向いていたから彼がどんな顔をしていたかは知らないけれど、声はいつもよりも優しく感じた。

「私が言うことじゃないけれど…………もう女の人を誑かさないであげて……」

「……え?」

勇気を振り絞って顔を上げると、彼が驚いたように私を見ていた。

「あんな風に紅斗くんが傷つくかもしれないなら…………私は……嫌だから………………」

彼の目を見て言う。彼は少しだけ理解できないような表情をしたけれど、すぐに笑ってくれた。その笑顔はいつもの優しさじゃなかった。まるで何かを諦めたような笑顔だった。

「あか、と……くん?」

「なぁに?」

「……ごめ、んね…………」

「え? どうして白愛が謝るの?」

また涙が溢れ出すのを感じた。泣けばいいとは思っていない。けれど感情のバグはどうしても涙が出てしまう。コンタクトレンズをしているから、どうしても涙を流すと痛くなる。彼の前では外せないけれど。痛みを我慢する。この涙は痛みの涙でもあり、彼に諦めさせるような表情させてしまった涙なのだと思った。

「何か……諦めさせちゃったかもしれないって思って…………ごめんね……」

フフと彼は笑う。その時の表情は優しそうだった。

「……何も諦めてないよ」

ただただ優しく笑う。諦めた表情でもない。愛しいものを見るような瞳。私が一番好きな瞳。彼はよくその瞳を私に向けてくれる。それが私にとって居心地が良かった。