死に物狂いで私は走った。鞄は持っていたから、そのまま下駄箱まで向かい、ローファーに履きかえる。そして誰も追いかけてきてにはいないのに、私は家まで走った。途中、人様に見られていたけれど全くに気にしなかった。

なぜだか分からなかった。どうしても彼から離れたいと思った。まさか私が見ていることを彼に知られているなんて思わなかったけれど。

「た、ただいま!」

さほど遠くない家。走って30分ほど。私は真っ先に自分の部屋に入った。扉を閉めて寄りかかる。そのままズルズルと座った。

涙が止まらなかった。何にショックだったのかもわからなかったけれど、涙が出ていることだけは分かった。

口が悪く、怖い雰囲気を漂わせる紅斗くんは、私の知らない人のように見えた。私が知っている紅斗くんは素ではないのかもしれない。どうしてもその事が受け入れられない。猫を被っていた。私に素を出してくれていなかった。私はそんなに信用がないのかな。

ダメだ、こんなネガティブ思考になっちゃ。茶愛みたいに私は可愛くないんだから笑顔だけでも忘れちゃいけない。誰かに言われたわけでもないのに、私のネガティブ思考は収まらなかった。

「お姉ちゃん……?」

私の部屋の扉をノックしながら呼んでくる茶愛。扉越しではあるけれど笑顔で「どうしたの?」と聞いた。

「泣いてるの……?」

「え?」

壁は分厚い設計のはずだ。そうそう声は漏れないようにクッションに蹲って泣いたし、バレないと思っていたのだが違ったのだろうか。

「いや、そんな気がして……違ったなら気にしなくていいから……」

「……うん、泣いてないよ。大丈夫だから気にしないで。ありがとう、心配してくれて」

そう言って私は茶愛に心配をかけないようにした。