祭りが終わり、数週間後の放課後のこと。

私は委員の仕事で少し遅くなり職員室に荷物を届けたあと、一組の前を通り過ぎようとした。

「ふざけないでよ!」

廊下に響き渡るほどの女子生徒の叫び声が聞こえた。聞いてはならないと、覗いてはならないと頭ではわかっていたのに、どうしても気になってしまった。

扉の小さな隙間から教室の中を除くと、教室内の真ん中で女子生徒と紅斗くんが話していた。会話の内容を聞く限り、紅斗くんが一方的に振っているように感じた。

女子生徒から告白したのに、なぜ女子生徒が怒っているのか。勝手に近づいてきて、相手の気持ちも考えずに離れられそうになった途端、キレる女子生徒に、どうしても私は納得がいかなかった。けれどここで出てしまえば話がややこしくなる。そんな気がした。

「だから何度も言ってるだろ。俺は好きな人がいるんだよ。だからアンタとはもう付き合えない。なんでそんなにキレられなきゃいけないんだ」

どこかいつもの紅斗くんじゃない気がした。犬系男子だと思っていた彼は、こんなに冷たい目をするんだ。私は彼と一緒にいるのに何も知らない気がした。

「どうして!? わたしの事が好きだって、大好きだって言ってくれたじゃない!! どこの女よ! 誰に誑かされたの!?」

「誑かされた……? 違うな。俺が一方的に好意を寄せてるだけだ。アンタにはもう関係ないことだろ。第一、アンタが勝手に俺を好きになっただけじゃねぇか。別に俺はアンタのこと好きでもなんでもなかったんだよ」

涙を流して必死に紅斗くんを留めようとする女子生徒。

どこか怖い雰囲気を漂わせている紅斗くん。口も悪いし、私が知っている優しい紅斗くんではなかった。猫を被っていたのだろうか。

「騙してたってこと!? 酷い! 人の心ないの!? なら、どうしてわたしにあんな酷いことをしたの!! だって紅斗は──」

聞いてはならないことを聞いてしまったように感じた。これ以上は踏み込んではならない。私は直感的にそう感じた。