紅斗が白愛に頼まれてわたあめを買う少し前、白愛がお手洗に行った時の話。

紅斗と茶愛は無言のまま一緒にいた。早く白愛が戻ってきて欲しいとお互いに思いながらも、相手に聞きたいことがあった。

「あのさ」

「あの」

同時に喋りだしてしまい、また沈黙になる。

「お先にどうぞ」

そう言って紅斗が譲るが、茶愛は喋り出さない。数分後に仕方がなさそうに喋り出した。

「天寺さんは、お姉ちゃんのこと好きですよね?」

ギクッ──

冷や汗をかく紅斗。目を逸らしたいのに、茶愛はめちゃくちゃ紅斗の目を見てくる。これ逸らしたらバレるやつだ、と悟った紅斗は茶愛とにらめっこすることになった。

「まぁどちらでもいいんですけれどね。とりあえず忠告します」

先に目を逸らしたのは茶愛だった。全てを見透かすような目をする茶愛に、紅斗は恐怖心を覚えた。

「忠告……?」

もう一度、茶愛は紅斗の目を見る。無意識に紅斗は瞳の色を白くした。その姿に茶愛は戸惑いはしたけれど、全てを察して諦める。

「お姉ちゃんは私の姉です。私が幸せにします。だから諦めてください」

「……いや! めっちゃ好きじゃん!」

真顔で言ってくる茶愛にツッコミを入れてしまう紅斗。まさか、こんなに姉が大好きだとは知らなかった。

「は? 好きじゃないですけど」

「えぇ?」

困惑する紅斗に対して茶愛さ満面の笑みで答えた。

「愛してるんです。あなたの“好き”と一緒にしないでください」

「……いや! 俺の方こそ愛してるからな!」

必死になって対抗する紅斗に対し、茶愛は勝ち誇ったように笑った。

「素はそっちですね」

全てを見透かしている。紅斗はそう思った。もう茶愛から逃げられないと感じた。

「……あーあ。バレないように気をつけてたんだけどな」

本当の性格の紅斗を知ってしまえば、白愛はきっと離れてしまう。純粋で真っ直ぐに育った白愛の隣に紅斗が居られる隙間はないのだろう。

紅斗はそのことを、だいぶ前から気がついていた。好きな人の隣に居られない寂しさを、どうしても受け入れたくなかった。

「けどゼッテェに手に入れる。好きな人の隣に居たいと思うのは悪いことじゃねぇだろ?」

「……勝負しますか?」

ニヤリと笑う紅斗に対して、不敵な笑みを浮かべる茶愛。今のところ茶愛に負けているような気がする紅斗は、負けられないと感じた。

「……いいぜ」

「ありがとうございます。勝負の内容は簡単。どちらがお姉ちゃんに愛されているか、です」

「……それ結構、俺が不利だよな?」

「そんなことないですよ? 頑張ってくださいね、天寺さん」

余裕の笑みを浮かべる茶愛に対して、紅斗は苦痛の笑みを浮かべる。絶対に勝ってやろう。紅斗は、そう心に誓った。

「茶愛〜! 天寺くん〜!」

ちょうどその時、白愛が戻ってきた。

「長かったね。何してたの?」

茶愛がいつもの無表情で問いかける。白愛は少しだけ息切れをしていたので整えてから質問に答えた。

「ちょっと迷っちゃって……」

「そうだろと思った」

「あはは……ごめんね」

「別に気にしてないから大丈夫」

「ありがとう、茶愛」

そう言って微笑む白愛に対して茶愛は、少しだけ勝ち誇ってような目線を紅斗に向けた。その姿に紅斗は、勝って、茶愛が負けた顔をするのを見たいと思ったのだった。