「いい、杏音…、知らない人には絶対についていっちゃだめよ。」

誘拐事件や露出狂が多発していた地域でもあったせいか、親も先生も…、周りの大人はいつもこの言葉を口をすっぱくして言ってきた。

「うん、わかってる。」

なかばうんざりしながら返事したあの日の朝。

そう、確かに返事をした。
だけど、あの時はまだ幼かったこともあって、どうしてそれを毎日のように言われなくちゃいけないかがわからなかった。

その日は晴(妹)の友達の家にお守りがてら遊びに行くことになっていて、

「晴をよろしくね」

と母に念を押されていた。

小学生になってから、晴の世話をまかされるようになって、ようやく当時なりの自立した気分になっていた私は、勇敢な気分で晴と、晴の友達の家に歩いていった。

そして、夕方の薄暗い帰り道、眠そうな妹と童謡をくちずさんであの道を歩いていった。