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『蝶』

ちょうちょ、ひらひら、僕の周りを舞って

ちょうちょ、ひらひら、追いかければ逃げてしまう。

あたたかい春をくぐって、山へ登り風に乗る。

真っ白な君が、だいすき。

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冬に羽化した蝶は、寒さに耐えきれずに死んでしまう。
子孫を残せずにただ孤独に生涯をとじる。
…杏音は、まるで冬の蝶のようだった。


もう5月の半ばなのに、杏音は小刻みに震えている。

でももう遠くからしか見ることができなかった。

杏音を守れなかった僕に、もう杏音のそばにいる資格はなかった。



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『バッタ』

飛べないバッタは、きっとバッタじゃないよ。

だけど、飛べないバッタだっている。

足が一本足らなくて、飛べないバッタはどうすればいいの?

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小学校の時に書いた飛べないバッタは、僕のことだ。
飛べないバッタはバッタじゃない。

どうせ蝶とは違う世界に住んでいるんだ。

だってホラ…。



『ごめんね、すぐる。

私、やっぱり何もわかっていなかったみたい。

私…彼氏とかそういうのはまだ早かったみたい。



ありがとう。』


小さくてきれいな星模様がちりばめられているメモ用紙。

丸くて整った小ぶりな字で淡々と書かれていた別れの言葉は、僕をやさしくゆっくりと奈落の底へ突き落としてきた。