メリンは今頃どうしているかな、と月明かりの中バルコニーで黄昏ていた時のこと。
 フィオンはバルコニーで騒いでいたメリンを思い出してしんみりとしていた。
 あの時のメリンは月明かりに照らされキラキラとした光がメリンの周りを取り囲み、そこだけ妖精の世界のようだった。人間の姿になったため羽がなくなってしまったと言っていたのに、その背中には羽があるように見え、フィオンは何度目を凝らして見たことか。メリンは間違いなく妖精ではあるのだが。
 あれからどのくらい経っただろうか。
 長かったような気もするし、先週のことだったかもしれない。出勤もしないし新聞もろくに目を通さないから、日にちの間隔がなくなっているようだった。
 流石にそれではいつか仕事に復帰した時に困るだろう、明日から新聞はしっかり目を通し日記でもつけてみるかとなんとか気持ちを前向きにして部屋に戻ろうとした時だった。
 何かに躓き、踏ん張ろうとしたところで髪を引っ張られ背中を押された。
 壁にぶつかる、と目を瞑るがぶつからず、そのまま倒れ込み床に手をついていた。
 どうなっているのかと目を開けると先ほどの月明かりはなく、小さい何かがぽうっと光って浮いている。その光はふたつあった。
 目を凝らしてよくみるとひとつは見覚えがある。どうやらメリンの友だちの妖精だ。
 再び妖精の姿が見えるようになったのだろうか? とフィオンが首を傾げていると、メリンの友だち――バイオレットは大きな声で「たすかったよ! じいさんありがと!」ともうひとつの光に声をかけていた。
「わしらが住んどる家の家主を転ばすなんてもう言わんでくれ!」
 もうひとつの光の方が言った。