普段はこの呪われた右肩もそんなに痛みを主張してこない。動かすとじわじわとそこから痛みが広がってゆく。
 最初はどこかで打ち身でも作ったかと気にせずに過ごしていたが、だんだんとあざは広がり痛みも出てきた。
 騎士の任務に支障をきたし始めたのはあざができてから1ヶ月ほど経ってからだった。その頃にはもうただの打ち身ではないことは、フィオン自身も気が付いていた。
 騎士団の団長に相談すると、王族付きの医者に診てもらうことになった。医者は青ざめた顔で『文献でしか見たことがありませんが、これは呪いの類でしょう』と言った。
 その日のうちに王へと報告が上がり、この話は内密にするようにとお達しがあった。すぐに団長と医者が連れ立ってフィオンを教会へ連れて行ったが、聖水をかけても祈りを捧げても解決はしなかった。
 フィオンが無期限の自宅療養を言い渡されたのはそれからすぐのことだった。先の――妖精界に迷い込んだ時の――任務の結果、次の昇進で副団長に決まった後のことだった。
 妖精界に入り込んでしまったことは幸運の出来事のようだったが、呪いをもらって帰ってきてしまったのだと思うとなかなかにやるせなかった。しかし騎士として以前に、困っている者がいれば助けるようにと育てられたフィオンには、食べられそうになり必死に逃げている小さな生き物を見つけてしまえば助ける以外の選択肢はなかったのだった。だから、あの妖精たちに出会えたことは悪い思い出にはならなかった。どうせ、自分の代わりはいくらでもいる。
 メリンと名乗った妖精にフィオンだと名乗ると『妖精に簡単に名乗ってはいけない』と怒られたことを彼は思い出す。あのオオカミには名乗らなかったのに呪われてしまうとはなぁとため息をついた。