「フィオンが、キスをしてくれたの。だけど魔法が完成してしまったら、私が妖精でなくなってしまったら、きっとフィオンを助けられないから……」
 話しながらまた涙が溢れてきた。
 私はフィオンのそばにいるチャンスを不意にしたのだ。
 人間の姿になる時は、今ほどの覚悟はなかったのではないだろうか。だって、今の方が覚悟を決めてきたのにこんなにも辛い。
 けれどくよくよしている場合ではないのだ。フィオンのことを助けるためならば。
「メリンが行かなくても、あたしが調べに行くことだってできたよ」
「確かにそうかもしれないけれど、もし月の妖精の魔法が完成したら私はバイオレットを認識できるかわからないでしょう? もう妖精のみんなを見ることができないかもしれないと思ったら、私が行くしかないって」
「そうかぁ」
 バイオレットが私の言葉に唸る。
 トンネルのような通路を抜けると、私たちが生まれた森に辿り着いた。
「こんなところに繋がっていたんだ。もしかして、あの人間とこの森は何か繋がりがあるのかもね」
 そんな風にバイオレットがひとりで納得している。
 こんなところにフィオンの屋敷へ繋がる通路があったなら、人間の姿になる前によくフィオンの所へ遊びに行っていた時に知りたかったなとふと思った。あの時は二日と半分くらい飛んで行った記憶だ。それが、こんな近道があるなんて。
 何か繋がりがあったら、嬉しい。