「それで、なんだって急に妖精界へ行くなんて言い出したわけ?」
 泣き止まない私の髪を引っ張り続けるバイオレットが聞いた。髪の毛を引っ張られているのが痛くて嫌だったけれど、おかげで妖精界へ行く意思を繋いでいられたように思う。
「フィオンが、呪われていたの」
「はぁ!? またなんで」
「たぶん、私をオオカミから助けたせいだと思う。右肩に酷いあざがあった」
 落ち込む私にバイオレットが慰めるように頬を叩いた。
「じゃぁメリンが会いにきたのは良かった事だったじゃん。これに気づけたんだから。それでどうするつもり? 呪いを解いてあげるんでしょ」
 バイオレットにはなんでもお見通しだ。
「月の妖精の元へ行こうかと思って。あの妖精なら解呪方法を知っていそうだから」
「でも今日は新月だったから、次の満月までまだ時間があるよ。それまであの人間のそばにいでも良かったんじゃない?」
 妖精の通路を進んでいるせいか、急に私の体が小さくなって妖精の姿に戻った。
 戻ってしまったのだ。あれだけ望んで手に入れた人間の姿から、元の妖精の体に。
 けれど、久しぶりの羽の感覚に嬉しいような寂しいような変な気持ちだ。しかし飛べることはとてもありがたかった。