この日は月のない夜だった。
 月の光を浴びないと体調が悪くなってしまうけれど、新月ならば仕方がない。明日は半日寝て過ごす覚悟をして、元気なうちにフィオンの部屋へ向かおうと決める。
 眠る時間よりもかなり早い時間だったからもしかしたら起きているかもしれない。少し話せたらそれでいいというつもりでフィオンの部屋へと潜り込んだ。
 フィオンはちょうど着替えをしていたようだった。シャツに袖を通していたが、右肩に違和感があるようで顔を顰めながらゆっくりと腕を動かしている。
 その右肩には黒く大きな禍々しいあざができていた。
「フィオン、それって……」
 私は思わず声を出していた。
 驚いたフィオンがこちらを振り返る。
「……君か」
 ふぅ、と息をはいたフィオンは、どことなく諦めたような顔をしていた。
「それはどうしたの?」
 魔力の少ない私たち小さな妖精でもわかるくらいに、明らかに禍々しい色と模様の大きなあざ。それは呪いだった。