「また君か……」
 私の手首を離し起き上がると、はぁ、と大きなため息をついた。
 やっぱり触れば起きてしまうよね、と少し残念に思いながらフィオンのため息を聞く。
「君は全く気配を感じないな……」
 騎士なのに気配まで感じなくなるとは俺も落ちたものだ、とかなんとかブツブツ言っている。
 夜中のフィオンは小さい独り言が多い。
 落ち込んでいるのか怒っているのかわからない声のトーンに、私は「だって妖精だもの。落ち込むことはないわ」と励ました。
「励まされた気にならない励ましだな……」
 やっぱり落ち込んでいるようだ。
「ニ日続けて寝室に入り込まれるとは。君はいつもどこから入ってくるんだ」
「妖精の通路だよ」
 そう言うと、フィオンはがっくりと肩を落とした。
「それはもう対策のしようがないじゃないか」
 フィオンが頭を抱えたので、怒られなかったことに安堵した私はにっこり笑ってみせた。
「諦めたほうが賢明かもね」
 もう怒る気もしない、と言いながらフィオンはベッドから出て寝室のドアを開け、私に退室を促す。
 今日は致し方無し、と私も素直に退室した。
「明日も来るね」