今日はうなされていないみたい。それなら唇を奪う他ないわ。昨日は何故か体が動かなくなってしまったけれど、今日は絶対に成功させる。
 枕元でフィオンの顔を覗き込む。
 今日はぐっすり寝ているようだ。もう私の緊張を殺気だなんて言わせない。
 フィオンの高い鼻を目掛けて体を屈める。気づかれてはいけないと息を止めたら目もつぶってしまった。うっすら瞼を上げるとフィオンの唇はもうすぐそこだ。
 薄い唇の間から白い歯がのぞいていて、規則正しい寝息が漏れている。
 その寝息を感じたらまた体が動かなくなってしまった。
 止めていた息も苦しくなって、一度体制を整えようと屈めた体を戻す。
 離れて見ているとすぐにでも唇に触れられそうなのにな。好きな人の唇を奪うって、こんなに大変なことだったのかと肩を落とす。
 フィオンに触れたい。私にも触れてほしい。
 気がつくと手を伸ばし、その柔らかな髪に触れていた。
 短い髪はさらさらと私の指先を流れ、元の場所へとおさまる。前髪の下にある眉毛にも触れたくなり、そっと眉毛をなぜてみた。
 起きてしまうかと思ったら、フィオンは起きない。よほど深い眠りの中にいるのだろう。
 まつ毛が影を落とす頬を通り過ぎ、私の好きな形の高い鼻の先にある唇まで指を持っていく。
 キスをしようする緊張感とはまた違った圧迫感が頭と胸に広がり、お腹の下に落ちていく。
 少しだけのぞいている白い歯にまで触れそうなほど強く、自分の指をフィオンの唇に押し当てた。
 指でなら触れられるのに。
 その時手首を掴まれフィオンが目を覚ました。