マリーに借りたワンピースのような服を3枚買ってもらい(これは私の出世払いという事になっている)、もう少し街を歩こうと誘った。
 お化粧道具を売っているお店の前を通ったので、意を決して聞いてみる。
「私、今日はお化粧をしているのよ」
 どうかしら、と胸を張って見せる。
 フィオンは「確かに雰囲気がいつもとは違うな」と言ってくれたけれど、それが良い評価なのか悪い評価なのかわからなかった。
 気持ちを伝えても、フィオンのためのおしゃれアピールをしても全く響かない様子だ。
 フィオンは確かに優しい。優しいけれど、それは私だけじゃないのだろう。
 しょんぼりとしていると、フィオンが心配してくれる。
「どうした? 他にも必要なものがあったのか」
 必要なものはフィオンのキスだよ、という言葉を飲み込む。
「違うわ。フィオンは優しいけれど、みんなに優しいから酷い人間だなと思っていたところ。そうやってたくさんの女の子を泣かしてきたのね」
「心外だな」
 フィオンはおどけて見せた。やっぱりこういう話題には慣れているのだ。
「おじいちゃんに聞いてみたら絶対に私の味方になってくれるはずよ」
 むすっとすると、「リーアムはいつでも俺の味方だ」と逆に胸を張られた。
 その姿に私がくすくす笑うと、フィオンも笑った。
 なんて幸せな時間なのだろう。
 好きな人と笑い合える日が来るなんて。
 私を見てくれない日々には戻りたくなかった。
「絶対に私のことを好きになってもらうからね」
 いたずらっぽく笑うと、フィオンは身構えたけれどすぐに笑い返してくれた。
「心しておくよ」
 私の宣戦布告は、やっぱり真剣に捉えてもらえないようだ。